天測の話

私たち航海士、船長にとって一番重要な技術、それが航海術だ。
商船学校に入って一年目に地文航法を学ぶ。これは地上・海上の航海術
全般を学ぶものだ。地図や海図の読み方から始まり、三角関数による
種々の計算を覚えさせられた。

2年生で題記の天測に関係する天文的な航海術とも言うべき天文航法を学ぶ。
その他には、第三の航法とも言うべき電波航法も約1年かけて勉強させられた。
この3つの航法が航海術の基本と言えるだろう。
この航海術、学生の私たちにとって重要なのは、よく解っているのだが、
三角関数やらlog計算等が出てきて当時は結構やっかいだった。
航海術のY先生は、楽しく授業を教えてくれる人で、授業をまともに聞いたことの
ない、不真面目な学生の私でも、余り居眠りをすることもなく授業を聞いていた
覚えがある。

さて、本題に入ろう。
その航海術・天文航法の中に、天測計算というのがある。
これは、その昔あの大航海時代と言われた15世紀に発達した、太陽や星、月等の
天体の高度を、六分儀と呼ばれる高度な望遠鏡とこれまた秒の10分の1まで
計ることの出来る分度器のようなものを組み合わせた機械で計り、めんどうな
計算を経て、件の天体の位置の線つまり、その天体からの等距離の線を求める
ものだ。刻々と変化する太陽の高度と、正確な正午の太陽の高度を測り、計算
することで、その正午の位置が求められる。どうして求められるかを説明
するとかなり面倒で、専門的になるので、ここでは割愛させていただく。
星は同時に複数の高度を測り、位置の線を求めれば、その交点が測定位置となる
ことは、ある程度わかるだろう。
2年生で初めて天測計算をした時のことは今でも鮮明に、そして強烈な思い出と
なって私の脳裏に焼き付いている。

なぜ強烈なのか?
それは、天測計算が、複雑なパターン化された計算なるが故に、最初は1時間以上
もかかるものだからだ。やっとそのパターンを覚えたての頃は、1時間以上の計算が
終わり、正解だと、安堵と興奮があった。
30年前の当時、衛星航法などはなく、この天測が外航船航海士の無くてはならない
技術だったのだ。船は港を離れ、大海に乗り出せば、そこはもう右も左もない。
道なき道をただひたすら、突き進んでいく船にとって、自船の正確な位置を知る
ことなしに航海を続けることは出来ない。そこで各航海士は、自身の当直時に
太陽や星を利用して、天測計算をし、位置を出さねばならなかったわけだ。
30年前より、電波航法の中でロランやデッカシステムというのがあり、沿岸では
それなりの精度で、位置をつかむことが出来たが、大洋に出るとやはり天測計算
以外、正確な位置を出すことは出来なかったのだ。
そのため、この技術を短時間で正確に計算すべく、練習船では、
「俺はもう二度と太陽や星を見たくない!」と練習生に言わしめるほど、厳しい
天測計算訓練が待っているのだ。

例えば、0−4直(夜半の0時から4時までと12時から16時までが当直)に
入っている場合、朝9時頃に起こされて、太陽の高度を1本計算させられる。その後
出来れば正午までにもう一本計算し、正午には、太陽が真南に来た時にその高度を
計り、計算し、正午の正確な位置を出すのだ。
そして昼からの当直中、最低一本は太陽高度を再度計り、正午の位置のチェックを
する。また夜半の当直中、月明かりで水平線が見えれば、いくつかの星の高度を
計り、またまた位置の計算をさせられる。
これが最初は各々一時間以上はかかるので、練習生は皆参ってしまう。
大洋航海中、曇りの日が続くと、練習生は誰でもほっとする。
この天測計算をしなくて良いからだ。
夕暮れに出てきた星を特定し、その高度を計り、位置を出すのは、一種の職人芸の
世界でもある。最初は全くわからなかった者でも、数をこなすうちに、
星の名もしぜんと判ってくるから不思議だ。
20年前に衛星航法が出現するまで、この天測は現役だったのだ。

時代は移り変わり現代。
この天測計算は、GPS(人工衛星による位置測定法)の位置が間違っていないか
チェックするだけのものとなってしまった。
しかしGPSも故障する時もあるので、ほそぼそとではあるが、計算させているのが
現状だ。

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